第四十二回卒業式
式 辞
五条川の桜並木も少しずつ明るさをましてきました。枝先のつぼみの静かで密やかな変化は、春の訪れが間近であることを伝えてくれています。その様子は、希望に胸を膨らませ、新しい世界へ旅立とうとしている皆さんと重なって見えます。本校第四十二回卒業生として巣立ちを迎えられた一一一名の皆さん、卒業おめでとうございます。
また、本校の卒業式にご臨席を賜りました 岩倉市副市長 小川 信彦 様をはじめ、多数のご来賓の皆様には、高い席からではございますが、厚く御礼申し上げます。
保護者の皆様方、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。こうして卒業の日を迎えられ、立派に成長した我が子の姿を目にして、感激も一入のことと拝察致します。本校の教育に、これまで多大なるご支援とご協力をいただきましたことに対して、改めて心より感謝申し上げます。
さて卒業生の皆さん、南中でのこの三年間は、皆さんにとってどのようなものだったでしょうか。私個人は、皆さんの姿で印象に残っていることとして、体育大会に向けて取り組む姿があります。皆さんの仲間の一人からも、こんな話を聞いたことがあります。・・・これまでの二年間、体育大会のたびに三年生の先輩たちが応援の練習などに熱中して、終わった後には感激の涙を流す姿を見ながら、自分との温度差を感じてきたし、「自分はあのようにはなれない」と思ってきた。それなのに、三年生になって、先輩たちと同じように体育大会の取組にどっぷりと浸り、終わった後に強く感動している自分に出会って驚いた。同時にそんな自分がうれしかった。・・・一人一人形は違うかもしれませんが、この三年の間にそれぞれの形で「新しい自分」との出会いがあったのではないでしょうか。そしてこれから皆さんが歩んでいく新しい世界でも、こうした出会いが繰り返され、皆さんは成長していくことになります。
平成最後の卒業生である皆さんが歩んでいく新しい時代は、どのような時代になっていくのでしょう。半世紀前、少年たちが熱狂したアニメーション「鉄腕アトム」に描かれた知能や感情を備えたロボットと人間が共存していく時代の到来が現実味を帯びてきてさえいます。その「鉄腕アトム」の作者手塚治虫は、遺作となったエッセイ集「ガラスの地球を救え」の中で、大宇宙というモノクロの世界の中に、たった一つ美しく青い輝きを放つ地球を、「大宇宙の孤独に耐えて浮かんでいる、ガラスのように壊れやすく、美しい水の惑星」と呼びます。
そしてAIの進化とともに、その地球を離れて宇宙で生活する人たちや、宇宙で生まれる子どもたちが現れる時代を予測した上でこう述べます。
生まれながらに地球という天体を外から眺めながら育った子どもたちは、その天体に棲む何十億という人間を、万物の霊長(地球上で最も優れた生物)とは見ないに違いないと思います。きっと他の無数の生き物と同等に、一介の生物として考えるでしょう。
その地球を乱開発したり荒廃させたりという人間のエゴイズムを彼らは黙認しないと思うのです。
きっと彼ら未来人、そして宇宙人でもある子どもたちは、新しい地球規模の哲学を携えて、地球の人々に警告を発するでしょう。
地球上には、宗教・思想・経済などあらゆる分野でいくつもの正義が存在し、それがぶつかり合い、争いが相変わらず続いています。たくさんの命が奪われ、地球は壊され続けています。私たち人類が未来永劫この星で生き続けていくためには、まずは目の前の正義から解放され、本当に大切なもの、物事の本質や真理をとらえることが必要なのだと思います。手塚は、未来の子どもたち、科学技術の発展した時代に生きる人たちにその可能性を託しているのです。
地球を外から見る大きな視野を備えること。幅の狭い正義にとらわれないこと。所謂「宇宙人」としての感覚を持つこと。未来を生きるあなたに、その希望は託されています。
南中での三年間を思い出してください。皆さんは「知をひらく」授業の中で、正解の無い問いや、幾通りもの答えのある問いに、友達とやわらかく関わりながら、頭を寄せ合って挑んできました。たくさんの国籍の友達や、様々な個性をもった友達と、時にはぶつかりながらも分け隔てなくつきあうことがあたりまえにできるようになってきました。先日も、講演をしてくださった具志アンデルソンさんから、「世界人」として生きようとのメッセージを受け取りました。
南中生は「宇宙人」として生きる準備を備えてきました。
胸を張り、自信を持って、新しい時代に踏み出してください。前途は洋々と広がっています
皆さんの健闘を心から願い、その人生に幸多からんことを祈って式辞といたします。
平成三十一年三月五日
岩倉市立南部中学校長
有 尾 幸 市